クラウド型電子カルテのメリット・デメリットを、電子カルテ「NOA」開発者が解説

近年、開業に伴ってクラウド型電子カルテを検討する医師が増えています。クラウド型電子カルテを使うと、クリニックや病院ではどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

今回は、産婦人科医として診療所で業務をしながら、日本で初めて電子カルテを開発した経験を持つ大橋克洋氏にインタビュー。

電子カルテのメリット・デメリット、そして、現場やシステム的にクラウド型電子カルテが抱える課題を伺います。

目次
  1. クラウド型電子カルテのメリット・デメリット
    1. メリット1:メンテナンスの作業時間やトラブル対応の手間が減る
      1. ・アップデート
      2. ・トラブル修正
      3. ・バックアップ
    2. メリット2:インターネット環境があればどのパソコンからでもアクセスできる
    3. メリット3:省スペースで電子カルテを運用できる
    4. メリット4:低料金で導入・運用できる
    5. メリット5:他システムと連携し、複数のデータをもとに診察できる
    6. デメリット1:インターネット環境が切れてしまうと、カルテ入力に支障が出る
  2. クラウド型電子カルテを導入することへの不安や課題点とは?
    1. 【セキュリティー問題】自分でデータを持つよりも、安全に管理されている
    2. 【確かなものか疑問】恐れず使うことで、メリットを享受できる
  3. クラウド型電子カルテでできること
    1. 【地域包括ケアシステムとの連携】医療と介護の現場で情報共有できるケースも
  4. クラウド型電子カルテと地域包括ケアシステムの課題
  5. まとめ

クラウド型電子カルテのメリット・デメリット

メリット1:メンテナンスの作業時間やトラブル対応の手間が減る

クラウド型電子カルテの大きなメリットは、自分で以下のような作業をする必要がないことです。

クラウド型電子カルテ導入で不要な業務内容
クラウド型電子カルテを導入をした場合に不要な作業

・アップデート

カルテをより使いやすくするために、システムを改善し、カルテにその機能を反映させる「アップデート」という作業があります。

おそらく、みなさんがお持ちのスマホに「アップデートを最新に保っておきましょう」などの表示が出て、アップデートを促されたことがあるはずです。それと同じように、常に安全で快適な状態で操作できるよう、カルテメーカーがアップデートに必要な作業を行ってくれます。

医師は、「アップデートの実行」ボタンをクリックするだけ。あとは自動で行われるので簡単です。とにかく手間が少なくカルテを運用できるようになります。

・トラブル修正

プログラムのバグや機器の欠陥があっても、クラウド型電子カルテのメーカーに、それらの修正をしてもらえます。私はカルテを作った側として電子カルテを運用していたので、バグがあるたびに診療を中断して作業しなければなりませんでした。そのたびに、患者さんをお待たせしていましたね。


カルテを使う側の医師のみなさんは、そういったトラブル時の対応は不要です。不具合があってもカルテメーカーが対応に努めてくれるので、「患者さんを待たせているイライラ」も減るのではないかと思います。

・バックアップ

基本的には自分でデータの保管をする必要はありません。クラウド型電子カルテのデータはサーバーに保管されています。

例えば災害時にパソコンが全て使えなくなっても、クラウドに保存されているデータがあるので、これまでの診療履歴も失うことがありません。大きなケガや病気で早急な対応が必要な現場でも、これまでの診療履歴を見ながら、適切な医療を提供することにつながります。

このように見ていくと、クラウド型電子カルテを導入することで、カルテの運用に必要な時間が最小化できることがわかると思います。

つまり、医師が「医師としての業務以外に割く時間」が減る、といえます。

メリット2:インターネット環境があればどのパソコンからでもアクセスできる

クラウド型電子カルテは、インターネット環境さえあれば動きます。院外にいても、インターネットに繋がったパソコンやタブレットさえあればカルテ記入ができる点で、クラウド型は便利だと思います。


私は、診察室で使っているパソコンが診療中にダウンしてしまった時に、このメリットを強く感じました。当時、別の手持ちのノートブック型パソコンをインターネットに繋いでクラウド型電子カルテにアクセスすることで、すぐ元のように診療を続けることができました。

前回までの情報が全て保管されていたので、スムーズに診療を終わらせることができました。


また、これからは訪問診療を行うクリニックも増えてきます。それに伴って、院外でも電子カルテの記入・閲覧をする必要性が高まっています。

厚生労働省:在宅療養支援診療所届出数
出展:厚生労働省「在宅医療(その1)

こういった診療スタイルでも、クラウド型電子カルテは対応可能です。


ただ、訪問診療をするにあたって必要な機能が、そのクラウド型カルテに備わっているかは別問題です。もしも訪問診療でのカルテ活用を考えているなら、具体的機能は各カルテメーカーに問い合わせすることをおすすめします。

メリット3:省スペースで電子カルテを運用できる

クラウド型電子カルテは、カルテデータを管理するようなサーバーを置くスペースが不要です。カルテ記入をするためのパソコンがあれば十分です。


もしもクラウド型電子カルテではなく、院内にすべての設備を配置する独立型「オンプレミス」の電子カルテだと、カルテ記入に必要なパソコンとは別に、サーバーを配置するスペースが必要です。つまり。少なくともデスクトップを一台配置する必要があります。

「たった一台の差」と思うかもしれませんが、そのスペースが意外と場所をとります。


これから開業を考えている医師は、物件を考える時にも、診察室や待ち合いスペースの広さを大事にしたい方もいるはずです。

そう考えると、最低限のハード機器を使い、見た目もすっきりと運用できる点は、クラウド型電子カルテのメリットだといえます。

メリット4:低料金で導入・運用できる

オンプレミス型の電子カルテは、初期費用のほかに、保守費用や更新費用が約3〜5年に一度、数百万円かかります。

一方でクラウド型電子カルテは、更新費用が不要です。初期費用は必要ですが、それ以外に毎月数万円の運用費がかかる程度です。

実際にどのくらいの違いがあるのかは、見積もり作成を依頼してみるとより明確にわかるでしょう。費用を抑えたい方は、料金やサポート費用等を慎重に比較しながら検討してみてください。

メリット5:他システムと連携し、複数のデータをもとに診察できる

クラウド型電子カルテは、他のオンラインサービスと連携することで、複数のサービスで集めた情報をパソコンやタブレットから確認できます。


例えば、WEB問診システムを使って、患者さんがスマホから事前に症状を書いておいたとします。その情報は、連携しているクラウド型電子カルテからすぐに確認できます。

クラウド型電子カルテとWEB問診システムの例

事前に症状を確認できるので、診察もよりスムーズになります。

デメリット1:インターネット環境が切れてしまうと、カルテ入力に支障が出る

クラウド型電子カルテには、ネットワークが切れてしまった時にどうするのか?という問題がありますね。
たしかに、最新の注意を払って運用されていても、何事も「絶対に大丈夫」ということはあり得ません。そのための備えも必要だと思います。


医師のみなさんができることは、ネットワークが切れたときの対処法を電子カルテメーカーから聞いて、マニュアル化しておくことです。これは、開院準備と合わせて絶対に行ってほしいです。

クラウド型電子カルテを導入することへの不安や課題点とは?

【セキュリティー問題】自分でデータを持つよりも、安全に管理されている

クラウド型電子カルテの導入するにあたって、医師のみなさんが心配しているのは、「ハックされてデータが盗まれるんじゃないか?」といったセキュリティーの問題だと思います。
たしかにニュースでは「情報流出」といった事件が取り上げられることもあります。もし電子カルテから患者さんの情報が盗まれたら、その情報を使った悪質な事件が起こりかねません。

ただ、今はさまざまな仕組みをもってセキュリティーが守られています。
クラウド型電子カルテのデータは、クラウドサーバーで保存・管理されています。

しかし、そのデータにアクセスするには、IDやパスワードでのログイン、さらには指紋やメールアドレスなど、IDやパスワードとは別の「本人確認」が可能な情報を提示する「2段階認証」といった段階を踏まなければなりません。

クラウド型電子カルテのセキュリティー

クラウドサーバー自体も、データを暗号化させたり、いくつものセキュリティー要件を満たした上で運用されています。


現に大企業や、データを重視する会社がクラウドサービスを安全で快適に使っているので、私としては、「自分のところにデータを置いておくよりは絶対安全だ」ということをわかってもらいたいです。
クラウドシステムではなく、電子カルテの情報管理という点でいうと、基本的に、電子カルテは厚生労働省の定めた「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に則って管理されています。
さらに、医師としても電子情報をどのように扱うべきかは、日本医師会の「医療情報システムを安全に管理するためのしおり 」等を見て、知識を深めておくことも必要です。

【確かなものか疑問】恐れず使うことで、メリットを享受できる

クラウド型電子カルテは、確かに独立型「オンプレミス」と比べればまだまだ新しいサービスです。「安全性が確立されたものしか使わない」と考える方にとっては、導入のハードルが高いかもしれません。もちろん、それはそれで良いことでもあります。


しかし、私としては、新しいものを恐れないでほしいと思います。使い方を覚えたり、そのためにスタッフ研修をしたりする時間・手間は確かに必要です。


一方で、新しいものに触れて、現在の医療業界を変化させることも大切です。実は、医療業界はいつも「世の中よりも遅れている」といわれています。今でこそ流通したFAXも、「FAXが世の中に普及しきった中でも医療機関には導入されていなかった」時期がありました。
同じように、クラウド型電子カルテに対して、医師会でも「そんなものを使うのは心配だ」といった反対意見が出てきたことがあります。しかしすでに「安全とコスト削減」のためにクラウドを利用する企業がかなり多くなっています。


クラウド型電子カルテのメリットは先に話しましたが、多様化している診療スタイルにも対応できるのがポイントだと思います。

例えばどのようなことができるのか、これから簡単に説明します。

クラウド型電子カルテでできること

【地域包括ケアシステムとの連携】医療と介護の現場で情報共有できるケースも

クラウド型電子カルテは、地域包括ケアシステムと一番相性が良いです。

地域包括ケアシステムの図解
図:地域包括ケアシステムの姿

地域包括ケアシステム
高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的に推進されている、サービス提供体制。2025年を目途に、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービスの構築を目指している。参考:厚生労働省「地域包括ケアシステム

医師が記入したカルテの内容をケアマネージャー等が見られるだけで、高齢者の状況を把握しやすくなります。


電子カルテの内容とはいかなくとも、互いにメモを共有できるだけでも有効です。例えば訪問介護者が、患者さんにできた褥瘡(じょくそう)を撮影し、メモと合わせて画像データを主治医に共有することもできます。


このように、インターネットを介することで、リアルタイムに医療福祉従事者間のコミュニケーションがとれるようになっていくと、より細やかな診療・体調管理が実現できます。

クラウド型電子カルテと地域包括ケアシステムの課題

クラウド型電子カルテは、地域包括システムとの連携がスムーズだという話をしました。


しかし、患者さんの健康情報を共有するには、本人の了承を得る必要があります。電子カルテであれば医療機関が、患者さん本人にその旨を確認しなければなりません。日本では個人情報保護法もあり、患者さんの同意なしに勝手に情報を共有することはできません。

参考:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)


クラウド型電子カルテの情報を、介護施設や生活支援団体と共有する場合は、患者さまの同意を得る上で活用するようにしましょう。


ただ、私としては、個人情報を交通整理して、医療サービスをスムーズに提供できる未来を期待しています。「本来の意味での個人情報保護だけに的を絞る」という考え方に変わり、より円滑なコミュニケーションが実現されることを望んでいます。

まとめ

クラウド型電子カルテは、多様化する診療スタイルへの対応や、電子カルテに関わる医療サービスとの関わりに必要な存在です。

色々な医療機器と接続したり、色々な関連サービスと連携したりすることで、電子カルテは医療システムのハブになる存在とも言えます。
クラウド型電子カルテにすると、データの整理・検索をする時間が最小限になるため、医師としての業務以外の作業を削減できることにもつながります。


もし気になることがあれば、電子カルテのメーカーに疑問点を質問してみましょう。先輩医師に意見を求めてみてもいいでしょう。

自分の情報をクリアにして、最適なクラウド型電子カルテを見つけてみてください。

大橋克洋

電子カルテ「NOA」開発者 | 大橋克洋

大橋産科婦人科院長
(公益社団法人)東京都医師会で医療情報担当の理事や、(公益社団法人)日本医師会で医療IT検討委員会委員長を務めるなど、医療ICT化や電子カルテの普及に尽力。


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