【開業医にインタビュー:和久井真司医師】医院継承の実情。トラブルやメリット・デメリットを直撃

医院継承を視野に入れている方の心配事としてたびたび挙がるのは、継承時の「人間関係のトラブル」です。果たして実際に継承を経験した医師は、継承時のことをどのように振り返り、「医院継承をやってよかった」と本当に思っているのでしょうか?

本記事では、2018年に千葉県我孫子市・湖北台診療所を親子継承した和久井真司医師にインタビュー。継承時に苦労した点、医院継承のメリット…さらに、これから医院継承をする方へのアドバイスも伺いました。

湖北台診療所を継承したきっかけは何ですか?

父親の年齢や、体調不良がきっかけです。2015-16年までは父親だけで診察をしていましたが、すでに80歳近くになっていたこともあり、患者さんから「この先、診療所が閉院してしまうのではないか」などの声が上がるようになりました。
そこで私が隔週土曜日に勤務し始め、さらに父の体調が悪くなってきたこともあって毎週金曜日も担当するようになりました。

ただ、私は当時から現在までも大学病院で毎週心臓外科の手術をしております。診療所に毎日通うことが難しいため、2017年からは後輩に診療所での勤務を依頼し、最初は週に1回、そこから2回、3回と後輩の担当を増やしていきました。体制が整った2018年にその後輩を院長にして、父が引退。私は理事長として継承しました。
今は後輩の医師が月曜日から水曜日・土曜日を担当し、私が金曜日を担当しています。(休診日:木曜・土曜午後・日曜・祝日)

継承のメリット・デメリットを教えてください

<メリット>
・継承したその日から集患が見込める
・土地や物件の費用を最小化できる
<デメリット>
・診療・経営方針の違いによるトラブルの可能性
・患者さんとの関係作りが必要

メリット1:継承したその日から集患が見込める

医院継承の最大のメリットは、最初から患者さんがゼロではないということです。
患者さんがすでにいるので、継承したその日から収入の保証がある点は大きいです。新規開業であれば、クリニックを知ってもらうことから始めなければなりませんので、集患という点を見ると医院継承が圧倒的に有利だと思います。

メリット2:土地や物件の費用を最小化できる

土地や物件、医療機器などがすでに揃っている点もメリットだと思います。診察できる体制が整っているため、土地や物件を探す手間、スケジュールを調整する時間、そしてなにより膨大なお金が不要です。
そのおかげで、非常に低コストで事業をスタートできました。

デメリット1:診療・経営方針の違いによるトラブルの可能性

医院継承のデメリットとしてよく聞くのは、診療・経営方針によるトラブル、人間関係の悪化です。ここに関しては私も悩みました。
当時、非常に節約が好きな父の考えと相反して、私は常に新しいものを導入することで、診療所がこれからも生きていくということを内外に示そうとしました。その部分がきっかけで父との不和も生じたように思います。私は、父の診療・経営方針のなかで良い部分はマネして、ブラッシュアップが必要な部分は新しくしていきたいと考えていたのですが、私の父は同じ方針での継承をしてほしかったようでした。

できごととして例を挙げると、カルテです。父は当然紙カルテでしたが、私は大学病院で電子カルテを使うことが当たり前でした。ただ、80歳の父が電子カルテの使い方を覚えたり、それを使って診察するのは非現実的でしたので、父が引退してから電子カルテを導入することにしました。
そのため、父が勤務している間は父のやり方を尊重し、紙カルテとは別にデータベースソフト「Filemaker Pro」を用いて父の業務とは関係のないところでシステム構築をしていきました。このシステムにより、電子カルテへの橋渡しをスムーズに行うことができました。

デメリット2:患者さんとの関係作りが必要

デメリットとも言い切れませんが、継承してからは患者さんに安心して診察を受けてもらうための時間が、一定期間必要です。
父が診察をしていた当時は、通院されている方の採血を3〜4カ月おきにしていまいたが、私が継承してからは2カ月おきに行っています。

ただ、父の時と少し勝手が違うので、患者さんのなかには抵抗感を示す人もいました。
もちろん昔の医師は、検査以外の方法でも診察できていたのかもしれませんが、患者さんの採血をせずに、たとえば、抗血小板剤などの薬を何カ月分も処方することは私にとって抵抗がありました。それよりは、定期的に検査をして患者さんの正確な状態を把握しながら処方内容を判断することにより、「あなたの健康は私がちゃんと守ります」という信頼感とつながりを作ることが大切だと考え、検査結果もその都度お伝えすることで患者さんと一緒に治療をしていく姿勢を見せるようにしました。

継承前と後で変わったところはどこですか?

前述したように、父と私は診療・経営方針が違うところがあったので、継承後は私の意見を反映して以下のような点を変更しました。

(1)電子カルテの導入、医療機器の購入
(2)診療内容の変更に伴い、スタッフの増員
(3)内装の改善、看板等の変更

(1)電子カルテの導入、医療機器の購入

電子カルテの導入は、父が引退する2018年3月末以降を予定していました。継承後は患者データを電子カルテやその他ITシステムを活用して管理する計画があったので、精力的にシステム構成を整え、同年11月に導入しました。私はシステム開発にも知見があったので、私自身が監修を務めつつ、当時リリースされたばかりの電子カルテサービスを採用しました。

スタッフの中には紙カルテから電子カルテへの移行に抵抗を示す方もいましたが、徐々に慣れてもらいました。新しいスタッフは対応が早く、問題なく運用できています。

また、医療機器については、最新の超音波装置であるGE LOGIQ P9を導入し、さらに超音波検査を委託で行うこととしました。これは、私が心臓外科出身であることもあり、超音波検査に不慣れであるため、見よう見まねのエコー検査よりは、やはり専門の技師さんにしっかりと所見をとってもらい診断することを重視しました。
具体的には、専門の超音波技師さんを定期的に派遣してもらい、最新の超音波機器を使ってレポートを作成してもらっています。開業医としては、エコー検査の外注に踏み切るのは勇気がいりましたが、一番は患者さんのために、いい加減な診断をしたくありませんでした。きちんと責任をもって診断し、例えば心臓疾患が見つかれば、私の場合は、自分が勤める大学病院で心臓手術を行うことができますので、大学の症例も増加することになります。また、高品質のエコー診断が可能ということは、なにより集患につながっています。

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(2)診療内容の変更に伴い、スタッフの増員

血液検査を定期的に行うようになり、検査内容も増えたこと、電子カルテで記録している検査結果を患者さんにも共有するなどのさまざまな作業が増えたこともあり、スタッフを増員しました。大学病院でお世話になった人にも協力してもらいながら運営しています。

また、事務長も新たに採用しました。私は自分で決めて行動したいタイプですが、大学病院の仕事もあるので、スタッフとのコミュニケーションや業者とのやりとり・状況把握などは事務長に実施してもらっています。
そのおかげで、自分の業務にかかる負担もだいぶ少なくなったと思います。

参考記事:現役事務長にインタビュー!事務長の仕事内容とは?

(3)内装の改善、看板等の変更

患者さんが安心できる空間を作るための改善もしています。継承前の待合室のソファは古く黒色で、一部穴も空いていましたが、今はアイボリーとクリーム色のソファに替わり、明るい印象作りを目指しました。患者さんのほとんどが近隣の団地にお住まいのため、お子さまが遊べるキッズスペースも拡大させ、汚れが目立っていた壁も塗り替えて清潔感をアップさせました。

また、外看板は穴が開いていたので新しくしました。グラフィックソフトウェアの「Adobe Illustrator」を使ってロゴも自作し、「Googleサイト」というアプリケーションでホームページも自作しました。これらのアプリケーションは簡単ですし、非常に有益ですので、興味がある方はマスターすることをおすすめしたいです。

湖北台診療所ホームページのスクリーンショット(https://sites.google.com/view/kohokudaiclinic/

このように、新しいことを積極的に取り入れて、クリニックの前進しているようすが患者さんにも見えるようにしました。そのおかげか、承継前に離れていった患者さんも少しずつ戻ってきました。

継承に必要な公的書類の申請はどのように進行しましたか?

税理士さんが当院の事務所に定期的に来てくれていたので、全部その方にお願いしました。私は確認してサインするのみです。
知識的にも時間的にも自力で行うことは難しいと思いますので、継承の手続きを予定している方には税理士や開業コンサルタントといった専門家への依頼をおすすめします。プロに任せて、ぜひ診療に専念していただきたいです。

親子継承を考えている方へのアドバイスを教えてください

私が経験した「父からの継承」というケースでいうと、やはりいちばん重要なことは、先代への感謝の気持ちを忘れないことだと思います。親子関係ですと、父は自身の「威厳」を大事にし、子は最新の知見を持ち込もうとするので、必ず意見の対立が起こります。相手を尊重したくない時もあるかもしれませんが、患者さんからすると、これまで長い間診てくれた先生のことを悪く言われるのは嫌ですし、言われなくともそういう雰囲気は伝わります。
父の意見に納得できない時に否定するのか、それとも一度受け入れて「ありがとう」と伝えるのかでは大きな違いがあります。

つまり、ある程度どちらかが権限を握る、そしてもう一方は相手の意志を理解しながら時には譲ることが大事だと思います。もし、先代が譲れるような人格ではなかった場合は、子が我慢して、たとえ明らかに間違ったことを主張されたとしてもそこで一歩引くことができないと、スムーズな継承は難しいでしょう。

知人の中には、父との不和が原因で継承をやめた人、自身の子供との意見が合わずに他人に継承した人もいます。私も「うまく継承できた」とまでは思っていませんが、尊重・譲り合いは少なからず必要だと思います。

最後に:継承での開業はおすすめですか?

メリットやデメリットを鑑みても、圧倒的におすすめです。もちろん親族からの場合、他人からの継承の場合など色々あると思いますが、そういった条件をまっさらに考えても、継承での開業が可能ならそうしたほうがいいと思います。

ただ、ゼロから自分で作りたい場合、クリニックの場所やコンセプトをこだわって考えたい場合などは新規開業でもいいと思います。
自分の考えに合わせて、「継承」という選択肢を検討するのがいいと思います。

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対象規模

無床クリニック向け 在宅向け

オプション機能

オンライン診療 予約システム モバイル端末 タブレット対応 WEB予約

提供形態

サービス クラウド SaaS 分離型

診療科目

内科、精神科、神経科、神経内科、呼吸器科、消化器科、、循環器科、小児科、外科、整形外科、形成外科、美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管科、小児外科、皮膚泌尿器科、皮膚科、泌尿器科、性病科、肛門科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、気管食道科、放射線科、麻酔科、心療内科、アレルギー科、リウマチ科、リハビリテーション科、、、、

和久井 真司 医師

取材協力 医療法人社団 湖北台診療所・理事長 | 和久井 真司 医師

医学博士、生命科学博士、日本大学病院 心臓血管外科 医局長・外来医長、日本胸部外科学会 学術委員、心臓血管外科専門医、外科専門医、TAVI実施医。


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執筆 CLIUS(クリアス )

クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
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