【開業医にインタビュー:豊田弘邦 医師】開業前の情報収集で参考になったのは? 開業コンサルとの上手な付き合い方

クリニックの開業を考えている方は、すでにさまざまな形で情報収集を始めていると思います。先輩医師の話や書籍、雑誌にインターネットなど……クリニック開業に関する情報は世に溢れています。

「開業医にインタビュー」企画第四弾となる本記事では、2020年にクリニックを新規開業した豊田弘邦医師に、開業前に行っていた情報収集の方法や開業コンサルタントとの付き合い方を中心に、その体験談をうかがいました。

ぜひ開業準備の参考にしてみてください。

目次
  1. 開業を決意したきっかけをお教えください
  2. 場所を決定する上で参考にした情報は?
  3. 開業コンサルにサポートを依頼した部分は?
  4. 開業前に情報収集をするメリットや参考になった情報源をお教えください
  5. 開業コンサルの利用はおすすめできますか?
  6. 開業準備で、特に力を入れた点についてお教えください
  7. 開業にあたってトラブルはありましたか?
  8. これから開業する人に向けてアドバイスがあれば教えてください

開業を決意したきっかけをお教えください

もともと開業医をめざしており、大学では家庭医療と総合診療を学んでいました。将来は地域に根ざした開業医になろうという気持ちがあって、ずっと開業のタイミングを見計らっていましたので、診療所に必要な物品や便利な機器・システムに関する情報収集は以前よりかなりしていました。

また開業の2−3年ほど前より、情報収集の一環として定期的に物件を調べていました。

物件の検索は不動産情報サイト『LIFULL HOME'S』がすごく便利で、土地や物件、賃貸から購入、「ロードサイドの1階」や「駐車場あり」といった細かい設定までを一括して調べることができます。そんな時、まさに私が思い描いていたような土地と物件を見つけました。実際に物件を見に行った際に理想の物件だと確信し、開業することにしました。

場所を決定する上で参考にした情報は?

政府統計の総合窓口」で周辺人口などを確認して、ネット上の無料サービスで診療圏調査を行いました。またコンサルタントは「MiSol(マイソル)」で診療圏調査を出してくれましたが、診療圏調査はいずれもかなり違った数値が出ています。

MiSolは控えめの数字でしたが、薬局系の無料診療圏調査では100人超のイケイケな来院予想が出てきました。こうした診療圏調査は人口に対して受療率を掛け合わせて計算をしているだけですので、当然ながら競合の強弱や、土地の上り下り、といった要素などは加味されていません。

当院は内科に加えて小児科も標榜しているので、その地域にどれくらいお子さんがいらっしゃるか、居住されてから1年以内の方がどれくらいいるかなどを国勢調査のデータで調べることもしました。新しく越してきた方は、今までの縛りがなく医療機関を探していることから、このデータはとても参考になりました。

開業コンサルにサポートを依頼した部分は?

主に資金調達の部分です。

私の場合年齢的に若いため、資金調達に難渋する可能性を排除したかったというのもあり、そういったトラブルやスケジュールの遅れを防ぐためにリース系のコンサルタント会社に支援を依頼しました。

宣伝広告物の制作については、コンサルタント会社から紹介してもらった広告会社のデザイナーさんに自作したロゴの調整やアレンジをしてもらい、看板やパンフレットに反映しました。自分で作るスキルと余裕があればもっと費用を抑えられたかもしれませんが、完成品には満足していますし、一括依頼したのでバラバラに頼むよりも時間の節約になったと思います。

医療機器の選定は、勤務医時代から「どこのメーカーが使いやすいか」「この機器でこれくらいのスピードなら診療で使えそうだ」といったことに関心を持ち、導入した後のイメージを明確にしていました。

そのため、納得できるものを直接見たいと思い、自ら問い合わせて見積もりをもらったメーカーもあります。導入にあたっては結局、卸業者にお願いをすることになりましたが、業者の方からはすごく嫌な顔をされましたね(苦笑)。卸業者の方からしたら、すでに見積もりも取られていたらやりづらいでしょうから……。

でも、開業する側にとっては良いものをなるべく安く導入したいのは当然です。私のやり方を全面的におすすめするわけではありませんが、自分が後々納得できるやり方を選択することは大事だと思います。

開業前に情報収集をするメリットや参考になった情報源をお教えください

医療機器などは定価と実売価格がかけ離れています。そういった現状において、医師同士の情報交換は非常に有用です。私は「開業医開業準備医師オンラインサロン」での情報がとても参考になりました。同会はTwitterで申請して、医師免許を提示しないと入会できないのですが、入会するとすでに開業されている先輩医師からのリアルな情報を得られます。そういった情報が共有されることで、医療機器の実際の相場感などもわかってきました。

ただ、私の場合は本当に開業直前に入会したので、正直、もっと早く入っておけば良かったと思っています。これから開業を目指しているみなさんは、私が利用させていただいているオンラインサロンのように、メーカーやコンサル会社の都合に左右されない情報が手に入るコミュニティなどで知識を増やしながら、気になったメーカーに直接問い合わせてみることをおすすめします。

卸を介さないで見積もりが取れる会社からは見積もりを取っておいたほうが良いと思いますし、オンラインサロンや知り合いの医師からの情報で相場感がわかれば、価格交渉もしやすくなるはずです。

開業コンサルの利用はおすすめできますか?

コンサル会社はマージンを含めた値段を提示するので、それで納得できるのであれば良いと思います。もしマージンの部分に納得できなければ、先輩医師などから業者さんを紹介してもらい、直接お願いして安くしてもらうのもひとつの手です。

ただ私の場合はコンサル会社の方には開業に避けて通れない細かな仕事や、銀行との交渉、業者間の調整など、到底自分ひとりでは時間的・経験的にかなわないことをお願いし、その部分にそれだけの価値があると思いました。担当の方との相性もあると思いますが、私は結果的にはマージンの部分を含め支払ってよかったと思っています。

また、開院には文書類にしろ申請にしろやらなければいけないことも多く、人生初めてでおそらく1回しかありません。経験知のある人に助けてもらうことで、時間的・精神的余裕が生まれるといったメリットもあります。

コンサルタントを選ぶときは、こちらの前提条件や自分の選択にどこまで対応できるかを率直に聞いてみるのが良いとおもいます。私は先述のとおり、機器選定など高額な買い物の際はコンサルタントにお願いせずに、自分で交渉・対応しました。「こちらが積極的に動いても嫌な顔をしない」というのが、私がコンサルタントに求める条件でした。私がお願いしたコンサル会社の担当の方は「先生が決めるなら、それで問題ありません」と嫌な顔せず臨機応変に対応してくれたのですごく助かりました。

このように、コンサルタントとは意見を正直に言える関係性を築けると良いと思います。

開業準備で、特に力を入れた点についてお教えください

内装工事については直接、業者さんとお話をさせていただきました。当院は木造一軒家のような物件を改装する形でしたので、設計上の制約が非常に大きかったです。それでも、設計士さんとは何十回もお話をして、設計士さんの提案内容と、医師や医療スタッフの動線などを含めた意見をしっかりとすり合わせていきました。そのため、開業してからも想定していたようなスムーズな動きができています。設計は積み重ねですので、少しでも疑念があったら解消していく、という姿勢が大事だと思います。

当院の場合、物件引き渡しの際にスケルトン(建物の床や壁、柱、天井だけの状態)にする工程で時間がかかってしまい、物件の構造が完全に分かったのは開業の数ヶ月前でした。その結果、もともと考えていた什器が入らなかったり、壁の厚さも当初より厚くなってしまって2番診察室に車椅子が入らなかったり、といった予定外のこともありました。これから開業される方には、このようなケースもあるということを知っていただき、トラブルのないよう事前に設計について確認してもらいたいですね。

内装は、当院に看護師として勤める妻が関わってくれました。結果、自分や一緒に働く人が過ごしやすいクリニックになったと思っています。

また、私やスタッフが使うものは質素なもので済ませましたが、患者さんが触れたり使うものは妥協せずに選んでよかったなと思いました。例えば、待合室のソファや診察椅子などです。良いものであればおそらく5年は買い換えませんから、そこで数万円節約するよりは、自ら納得できるものを選び、患者さんに心地よく過ごしてもらえるものを選んで良かったなと思っています。

開業にあたってトラブルはありましたか?

あまりトラブルはありませんでしたが、強いて挙げるなら注文していた液晶ディスプレイが、コロナ禍の影響で到着までかなり時間がかかりました。今回のパターンはレアケースですが、開業にあたって何かしらのトラブルは誰でも起こるはずです。時間的なトラブルが起こることを見越して、工事施工や物品調達の時間は余裕をもっておいたほうが良いと思います。

これから開業する人に向けてアドバイスがあれば教えてください

私は開院するまでの準備もすごく楽しかったですが、開院してからも毎日「どんな患者さんが来てくれるかな」「どんな方と出会えるかな」と楽しく過ごしています。

もともと私は自分が10年後どうなりたいか、といった想像をするのが得意ではなかったのですが、開業をきっかけにゆっくりと考えることができましたし、それが今のモチベーションの源だとも思っています。開業は一生に一度あるかないかのことで、ついつい細かい点に目がいってしまいがちで、無駄にすり減ることもあります。でも今後どうありたいのかを考えることで、小さな歩幅ではありますが、モチベーションを維持しながら続けられています。

幸いにも私はスタッフに恵まれて、皆で助け合い、方向性を確認しながら、毎日楽しく働いています。開業してから実際にこのハードウェア(施設・設備)を使って、どのように患者さんの役に立てるのか、自分がどうしたいのかということを考えた上で準備をしていけば、開業後もより楽しく心穏やかに過ごせるのではないでしょうか。

豊田 弘邦 医師

高浜台内科小児科クリニック院長 | 豊田 弘邦 医師

昭和大学総合診療科、昭和大学病院救急医療センターにて勤務。2020年に高浜台内科小児科クリニックを設立。専門は家庭医療、救急医療。


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