【セミナーレポ】新時代の在宅医療クリニックのマーケティングとは

2020年10月15日、株式会社リード エグジビション ジャパンが開催する、第一回クリニックEXPO 東京にて、在宅医療クリニックのマーケティングに関するセミナーが行われました。

当セミナーでお話しされた佐々木 淳 氏が運営する医療法人社団悠翔会は、「チーム在宅医療」の理想を追求し、通院が難しい方にとって「安心できる生活」「納得できる人生」を実現するためのサポートをしています。現在は、在宅医療に特化した「機能強化型在宅療養支援診療所」を首都圏に15クリニック展開しています。

本記事は、当セミナーの要点としての、在宅医療が目指していること、感染症を予防しながら患者さんを尊重する方法などをまとめた内容となっております。

<セミナー概要>
・日時:2020年10月15日(木)12:30〜14:00
・会場:千葉県:幕張メッセ(第一回 クリニックEXPO[東京]セミナーにて)
・費用:無料
・プログラム:『新時代の在宅医療クリニックのマーケティングとは』
・登壇者:医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長 佐々木 淳

※以下は、佐々木氏の発言をもとにした内容となります。

目次
  1. 在宅医療が目指すのは、患者さんを「急変させず、入院させない」こと
  2. 在宅医療が向き合うべきは「社会機能の担保」
  3. 高齢者の病状を悪化させないための方法
    1. 一次予防
    2. 二次予防
    3. 三次予防
  4. コロナ禍で見えた、在宅医療に必要とされる対策
    1. 感染させない環境整備
    2. 患者さん自身でできる対策を促す
    3. 医療を止めない物資の確保
    4. 介護者や家族の教育を進める
  5. さいごに:解決には公的機関の後押しも必要

在宅医療が目指すのは、患者さんを「急変させず、入院させない」こと

私たちが行っていることを理解していただくために、まずは在宅医療の目指すところをお伝えします。在宅医療は、患者さんの意志を尊重しながら、なるべく病状を急変させず入院させず、(特に高齢者においては)穏やかな老衰につながる状態を目指しています。

例えば青年期から中年期まで働いて、高年期が始まります。その10年後、70代後半で大きな病気をして一命をとりとめたとします。退院後の介護状態に突入し、在宅介護中のトラブルで骨折。入院をしながらリハビリをしていたものの、肺炎を起こして入院が長くなる。こういったケースに陥る高齢者は珍しくありません。

画像:編集部作成(厚生労働省「健康日本21(総論)」を参照)

在宅医療が向き合うべきは「社会機能の担保」

私たちの身体機能は20代、30代をピークに下がっていきます。青年期や壮年期であれば、何かあったら病院で治してもらっていたものが、人生の最終段階では「治る」ことが難しく、治療が終わっても身体的機能が回復しません。

私はもともと病院で内科医として働いていました。治らない病気を抱える患者さんを診ることも多く、当時は「治らないです、ごめんなさい」と、患者さん自身に、治らないことが不幸だという価値観を押し付けていたんだと思います。しかし、在宅医療を受けている患者さんとコミュニケーションをとる中で、治らなくても、生活や人との関わりを活性化させることで、患者さんは残された時間を楽しく生きられることに気づきました。

そこで、在宅医療の出番です。
急変させない、入院させないという在宅医療の考え方に沿って、その人の意志を尊重し、残された時間を楽しく過ごす方法を考えます。
確かに、歩けて話せて、自力でご飯が食べられたら良い状態でしょう。ただ、歩けないからといって、身体機能が回復しない高齢者に、歩くためのリハビリをし続けることは果たして適切なのかを考えてほしい。身体機能が落ちても、人間らしく生きるための「社会的機能」がしっかりしていれば、人間は生きる楽しさを見出すことができます。

私は、社会的機能は「家族」「友人」「地域」の3つから成ると考えています。例えばこのセミナーに参加されている皆さんが自立しているのは、何かに支えられているからではなく、根っこがあるからです。友達や仲間がいて助けてもらえますし、仕事では社会的役割もある。人間関係の根っこがしっかりと張っているからだと思います。

画像:編集部作成

身体的機能を失いつつある高齢者も、この3つの要素を持つ必要があります。社会との関係性を保つためにも、自宅で、家族の一員であることが大事です。病院で「患者さん」で居続けるのではなく、家族の一員のままでいる。
家族や友人とのつながりが少ない人は、死亡率が2倍になるとも言われています。(参考:石川 善樹『友だちの数で寿命はきまる 人との「つながり」が最高の健康法』マガジンハウス)

つまり、在宅医療を進めている私たちの課題は「患者さんに社会での場所を作れるようにする」ということです。ひとりでは立てない人たちの根っこをしっかりさせるサポートをしながら、医療や介護でさらに支える必要があります。

私たち医師が学校や病院で学んできたことは「どう治療するか?」です。しかし医師は本来、人の幸せを実現するためのひとつのツールとして医療を提供する存在だと思います。治療すべき時は治療に専念すべき。ただ、治らなくても、どうしたらこの人が幸せな人生を取り戻せるかを考える必要がある。これは、大学では教えてもらえない考え方です。

高齢者の病状を悪化させないための方法

在宅医療を受ける患者さんが社会的機能を保つためには、病状が安定して入退院を繰り返さないことが前提となります。
高齢者が急変せず、入院しないための具体的な方法として、私たちは「予防医学」という考え方を取っています。
容体が急変する方がいれば、どうやったら急変させないかを考える。予期せぬことが起きたら、次からは予期して予防できるようにする。そのために3つの段階に分けて準備します。

一次予防

病気にかからず健康的な状態を維持するための予防です。
極端なことを言うと、誤嚥性肺炎を起こさないためには点滴にすればいいわけです。しかし私たちは、社会的機能を保ってもらうために、自分の口から食べながら、つまり家で日常生活を送りながら、肺炎等を起こさない方法・対策をまず考えます。例えば誤嚥性肺炎は、食事量が減り骨格筋が衰えることが一因となっているため、一次予防では、高齢者に「よく食べること」を推奨しています。

二次予防

二次予防は、病気の早期発見、早期治療です。例えば誤嚥性肺炎を早めに見つけ、在宅医療が介入できれば、自宅で生活しながら療養が可能です。

2018年、悠翔会では、急変が起きたときの電話対応を14,000件行いました。そのうち、4,600件は往診等が不要と判断し、5,500件は臨時往診を実施しました。そのほか、電話での診察や、救急車を呼んだケースもありますが、往診の場合は患者さんの電話から平均38分後に診療が開始できています。これは救急車と同じか、やや早いくらいです。
※救急自動車による病院収容所要時間は全国平均39.5分。
参考:総務省「令和元年 救急・救助の現況」の公表 (令和元年12月26日)

三次予防

合併症を予防し、早期退院を図ることを意味します。高齢者は、1日入院すると一歳年を取ると言われています。命を守るには入院が必要ですが、その先の、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)をどうするのかというところも考えたい。

ACP アドバンス・ケア・プランニング
将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、患者さんを主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのことです。患者さんの人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化することを目標にしています。引用:東京都医師会「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)ー人生会議ー

ACPを整備することで、社会的入院の問題にも訴求できると思います。
日本は特に、自己決定しない文化です。退院できる状態の高齢者が決めるよりも、周りの家族と話し合って集団的合意をとるケースが多いです。ですから、本人が家で過ごしたいと思っていても、家族への迷惑を考えて入院し続けることを選択することも珍しくありません。

社会的入院
介護が難しい等の理由から、高齢者が入院する・入院が継続されること。そのほか、病状が安定しても、長期の入院によって地域社会から隔絶され元の生活に戻れなくなり、引き続いての長期入院を余儀無くされること等。
参考:日本精神保健福祉士協会「社会的入院解消に向けた働きかけガイドライン」看護roo!「用語辞典 社会的入院

そこで、本人がどうやって生きてきて、何を大切にして何と関わって生きてきたのかを私たちが知っていく。「この人は病院でいいと言っているけど、本当は家が良いんだろうな。娘さんは無理って言ってるけど、お母さんが『家がいい』と言えば、みんな協力してくれるだろう」といったように、周りの人とのコミュニケーションをとりながら、本人・家族にとって最適な着地点を探っていきます。

私たちは日々の対話を通じて、その人たちの真のニーズをキャッチし、みんなにとって納得できる着地点を探すプロセスを重要視しています。
そしてACPを実現するためには、私たちだけではなく、ケアプランを作成したり、一緒に進んでくれるライフケアプランナーといった専門家に頼る必要があるとも思っています。

コロナ禍で見えた、在宅医療に必要とされる対策

予防医学という観点にリンクする点もありますが、高齢者の病状が急変せず、入院しないためにはコロナに関する対策もいくつかあります。

感染させない環境整備

特に2020年は、都市部を中心に新型コロナの影響を受けました。コロナは若い人にとってはちょっとした風邪かもしれませんが、高齢者にとっては死亡率が高い病気です。私たちは、いかに患者さんを感染から守るかに力を入れています。
彼・彼女らは寝たきりや家の中で過ごすことが多いので、出入りする私たちが感染させないことが何より大事です。正直「熱が出た」という相談は、新型コロナと関係なく、よくあります。そこで安易に救急車を呼ぶと、かえって病院や他人との接触で感染しかねません。

私たちは、患者さんの症状を鑑みて、診察が必要だと判断した際にはマスク等で予防した上で、自宅に伺っていました。
診察については、まず発熱者の元々の熱の出やすさ、行動履歴、地域のコロナ感染状況をチェックしました。当初は700件ほど発熱の相談がありましたが、その中でもコロナの可能性がある人は6件で、6件とも自宅でPCR検査を行い、全て陰性だと分かりました。

患者さん自身でできる対策を促す

インフルエンザの場合は、ワクチンがあるから罹患率も少なくなります。そのため、ワクチンの接種はなるべく促しておきたい。そして熱が出たら、自宅である程度隔離してもらうなど、家族がすぐに対策をとれるお手伝いも必要です。

医療を止めない物資の確保

マスクやガウンの不足も避けておきたいところです。私たちはもともと備蓄があったので困りませんでした。さらに、悠翔会のクリニックでまとめて共同購入もできたのでマスク等が切れることなく業務を行っています。

厚生労働省が、今後起こりうる感染症等に備えるための物資確保の必要性を説いている通り、有事の際に備えておく必要があります。
参考:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(令和2年5月29日)

介護者や家族の教育を進める

また、コロナ禍で再認識した点は、在宅医療は医療従事者ではない人々との関わりが特に密接だということです。今後はヘルパーさんや家族のみなさんへの感染予防の教育も必要だと思います。
教育研修の仕組みが、クリニックや、地域で作られるべきだと思います。

さいごに:解決には公的機関の後押しも必要

これまでさまざまな観点から、在宅医療の課題や課題に訴求するための方法等をお話ししてきましたが、これらをクリニック単体で行うことは困難です。
私としては、ある程度公的なサポートをしてもらえたらと思います。

在宅医療を受ける高齢者だけではなく、その周囲の人とのコミュニケーションを円滑にするための課題はまだまだありますが、私たちは少しでも患者さんが楽しく人生を過ごせる工夫をして業務にあたっています。

佐々木 淳

医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長 | 佐々木 淳

1998年、筑波大学医学専門学群卒業。三井記念病院内科・消化器内科、東京大学医学部附属病院等の勤務を経て、2006年に医療法人社団悠翔会を設立し、理事長就任。在宅医療に特化した医療法人として、「機能強化型在宅療養支援診療所」を首都圏に15クリニック展開。約5,000人の在宅患者さんの診療・サポートを実施している。


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